『クラッシュ』

スペースFS汐留「クラッシュ」Crash試写会。
映画の冒頭から延々と続く、登場人物達のあからさまな人種差別発言に、嫌悪感と疲労感がつのっていくような、あるシーンの前までに感じていた気分と、そのシーン以降、見終わった後の感想、感じ方がガラっと変わる映画でした。

クラッシュ

差別する側される側の違いはあれど、出て来る人物全員、１人１人が強い差別意識の中で日々暮らしている事。多種多様な人種、宗教や考え方の違いなどから、人の間に衝突が生まれるのは当たり前の事かもしれないけれど、「過去にあった出来事の結果」や「自分とは違うということ」だけで、こんなにも他人を憎んでしまえる。人間の弱くて汚い、脆い部分が色んな形で表現される前半に辛くなります。
主義や主張なんて通用しない、空気の様に充満する差別観の中、否が応に、自らも差別する側の歯車にのみ込まれていってしまう。そうしないと生きていけないから。
それが今のアメリカの姿だという事を嫌というほど見せつけられます。

そして、数々の憎しみの連鎖を見ているのに疲弊しきった頃、奇跡が起こります。
それまでの登場人物達の否定的な感情に満ちた一時間以上を、全てこの場面の為の演出にと変えてしまうような、美しく、魔法のようなワンシーン。
激しい怒りと憎しみ、悲しみの中で、全てを覆すような“ある出来事”とその描き方。
そのシーンを見た時、「もしかしてこの映画はファンタジーなのか!?」と思いました。
そんな驚きと幸福感にあふれ、何とも言えない不思議なあたたかさに包まれたまま、物語は進行していき、現実とファンタジーとの間に橋を渡すような、とてもリアルな“魔法の種明かし”をしてくれます。

Crash [Original Motion Picture Soundtrack]
サントラのジャケットを見ているだけで、深い悲しみと奇跡と愛と、人間の業と神の祝福というような、映画を観ている時に感じたあらゆる感情が再び沸き起こってきます。

それぞれの登場人物達の結末は、決して幸福なものではないのだけれど、それも含めて、全てが人間の営みの当たり前の風景のようにも見えてきます。
差別意識が当たり前の事になっている事実はとても悲しい事だけれど、今、そのただ中で生きている人間にとっては、それがある事が前提で、その上に、幸福も不幸もあるのだという事を漠然と感じ、差別という問題について改めて考えさせられました。

差別という問題をありのままに描き、“どうしようもなくそこにあるもの”として扱っていることが、余計にリアルで、ガツンと心に突き刺さってくる。
幾重にも深く重なり合った心のドラマに強く心を揺さぶられる、とても緻密で繊細なオーケストラを聴いているような、不思議で、迫力のある映画でした。

　ミリオンダラー・ベイビー 3-Disc アワード・エディション
監督・脚本はミリオンダラー・ベイビーの製作・脚本のポール・ハギス。「クラッシュ」では監督・製作・原案・脚本を手がけています。これが初監督作とは思えない完成度の高さ！　良い脚本家が必ずしも良い映画監督にはならないと思うのですが、ポール・ハギスの場合は脚本が素晴らしいだけでなく、演出力や監督としての才能もあるのだと感心しました。今からもう、彼の次回作がとても楽しみです。

「ミリオダラー・ベイビー」の感想記事

Comments

リアルな作品でしたね。
それぞれが微妙に重なりあって、、、、。
この監督には、今後も要注目です。

Posted by mig at 2006年02月07日 13:36

migさま。
本当に息詰まるほど、リアルな描写とセリフの数々に、登場人物達の感情が痛いくらい伝わってきました。監督の次回作、楽しみです！

Posted by bakabros at 2006年02月07日 21:32

はじめまして！
私も「魔法」のシーン、感動しました！
すごく悲しくて泣いていたのに
その『奇跡』によって
さらに涙があふれました！

私もよく試写会に行きます。
どこかの会場で会っているかもしれませんね！
こちらにもまた遊びにきます！

Posted by しましま at 2006年02月08日 11:03

しましまさま。はじめまして、こんにちは！
人によっては好き嫌いもあるかもしれませんが、最後まで見ると始めのイメージががらりと変わるので、見てみないとわからないし、多くの人に見て欲しい映画だと思いました。

しましまさんの試写会当選率も凄いですね〜。
きっとどこかですれ違ってるでしょうね！
私もまた遊びに行かせて頂きたいと思います♪

Posted by bakabros at 2006年02月08日 14:26

こんにちわ〜(^o^)／
トラバありがとうございました〜♫

あの正義に燃える警官のエピソードは
何ともやりきれないですよね〜

炎上事故のシーンからもうガガーン！ときちゃって
その後は鳥肌が立ちっぱなしでした(^o^；

こんな映画はそうそうお目にかかれませんよね
本当に満足できた映画です！

Posted by こっちゃん at 2006年02月09日 14:22

こっちゃんさま。こんにちは！
どの登場人物にも、少しずつ共感出来てしまうように、普段は隠しているような自分の中の色んな面を改めて思い知らされるような、深く胸に残る映画でした。許し難いような出来事を、美しくみせてしまう監督の脚本、演出力は素晴らしいと思います。

Posted by bakabros at 2006年02月10日 01:46

コメントありがとうございました。ＴＢさせていただきました。
“美しく、魔法のようなワンシーン”。画像から察するに、あのシーンですね（笑）。
涙が一筋こぼれました。
このシーンもさることながら、他のシーンも見所たっぷりでした。
思わず、早稲田松竹で「ミリオンダラーベイビー」を観に行ってしまいました。

Posted by Marty at 2006年02月10日 03:40

Martyさま。
そう、あのシーンです！（笑）
それまでちょっと疲れていたのですが、あそこからもの凄く惹きつけられて行きました。
「ミリオダラー・ベイビー」、もう一度観てみようかな？ と思いました。

Posted by bakabros at 2006年02月10日 06:54

ＴＢとコメントありがとうございました。
日常の些細な光景からアメリカの問題を上手く描いたいい作品だと思います。
出演者が多いのに、1人１人が丁寧に描かれているのにも感心しました。
また来ます。

Posted by かめ at 2006年02月10日 12:08

かめさま。こんにちは！
１人１人に少しずつ共感出来る部分があって、考えさせられる前に感じるような映画でした。
是非また遊びに来て下さいね♪

Posted by bakabros at 2006年02月10日 15:59

こんばんわ☆
僕も「クラッシュ」観てきました。
途中から魔法！魔法ですよね！？
スクリーンを神様が横切ったような雰囲気に呑まれて連鎖的に起こる数々の出来事に感銘を受けてしまいました。
またこれからもちょくちょく遊びに来ます☆

Posted by orange at 2006年02月12日 01:12

orangeさま。こんにちは！
魔法ですよね〜☆　それまで結構引き気味だったのですが、自分までが本当に魔法にかけられたような、美しい光に包まれました。
その後はもう全てがキラキラ見えてくるような。本当に不思議な映画です。
是非今後も、ちょくちょく来てやって下さいね♪　私も寄らせて頂きたいと思います！

Posted by bakabros at 2006年02月12日 03:14

こんにちは。
先日は早々にトラコメありがとうございました。

確認したくて、
また公開日に観に行ってしまいました。
あ、あのシーンが来る来るよ！
と思っただけでうるうるっと…。

そーんな私なのでした。
余計なお世話ですが、
食べ過ぎにもご注意くださいませ。
ついつい気になって…。

Posted by エンタメ！ブレイク？ at 2006年02月12日 12:13

エンタメ！ブレイク？さま。こんにちは！
レビュー拝見しました。本当に美しくて胸を打つシーンですよね。もう一度スクリーンで観たいです。
最近「大盛」が普通になってきてしまっている事に自分でもやばいな〜と思っています。
全ては「ジャポネ」から始まった……。

Posted by bakabros at 2006年02月12日 20:31

こんにちは、ＴＢさせていただきました！
＞数々の憎しみの連鎖を見ているのに疲弊しきった頃、奇跡が起こります。
この映画を観たとき、結構疲れていたし、題材も題材だから重い気持ちで観始めたのですが、この後味のよさ、高揚感！
素晴らしい映画を観た後の気持ちよい脱力感を感じることができた映画でした。

Posted by Ken at 2006年02月12日 21:35

Kenさま。こんにちは！
始まりから、ひどく差別的なセリフの応酬で、心を閉ざしかけていた頃、起こる奇跡にガツンとやられました。観賞後は、全ての人物の発言、行動にかけられていた偏見のベールがぬぐい去られたような気がしました。
もう一度観たら、もっと違った感覚で観られるような気がします。本当に不思議な映画です。

Posted by bakabros at 2006年02月13日 01:06

これは良いですね〜。
アメリカからはまた凄い才能が出てきたという感じです。
人間の”クラッシュ”は哀しい結果も生むけど、人はやはり人がいないと生きていけない。
そんな人間の寂しさから、最後は希望を感じさせてくれました。

Posted by ノラネコ at 2006年02月20日 23:27

これは良いですね〜。
アメリカからはまた凄い才能が出てきたという感じです。
人間の”クラッシュ”は哀しい結果も生むけど、人はやはり人がいないと生きていけない。
そんな人間の寂しさから、最後は希望を感じさせてくれました。

Posted by at 2006年02月20日 23:31

ノラネコさま。
本当に良かったですね〜！
どんな形でどんな結果になろうとも、“クラッシュ”しないと生きていけない。そしてその結果からまた何かが生まれて変わっていく。
どうしようもない出来事が、当たり前の日常に見えてくる、そして最後には光を感じる、不思議な映画でした。

Posted by bakabros at 2006年02月21日 01:46

こんにちわ。
散々重苦しいものを見せられたのにラストになると何だか優しい映画に思えてしまいました。
魔法のようだけど決して嘘くさく見えずに私達の普段の中にも起こりそうなそんなリアルな魔法だったと思います。
見終わった後もじわじわきます。

Posted by ななな at 2006年02月21日 12:55

なななさま。こんにちは！
中盤までと、リアルな魔法を目にしてから、ラストまでと、こんなに雰囲気の変わる映画も珍しいですよね！　凄く余韻の残る作品ですね☆

Posted by bakabros at 2006年02月21日 16:14

TBありがとうございました。
アカデミー賞の結果が楽しみですね！
「クラッシュ」は３部門ぐらい受賞してほしいなあ。勝手な希望ですけど（笑）。

Posted by 映画三昧 at 2006年03月01日 10:18

映画三昧さま。こんにちは！
「クラッシュ」はその時の自分の状況や気分でも見方がガラッと変わってしまいそうな映画なので、この映画と良い出逢いが出来た事を本当に幸せに感じます。アカデミー賞楽しみです♪

Posted by bakabros at 2006年03月01日 15:19

お世話になっております。
TBさせていただきました。

見終わって一日経ちましたが、
まだじわじわと良さが増している気がします。
“奇跡”素晴らしかったですね＾＾

Posted by りょう at 2006年03月20日 20:46

りょうさま。こんにちは！
私も、予告編を見かけたり、この映画のことを思い出すたびにいまだにドキドキしてきます。
心に深く残る映画になりました☆

Posted by bakabros at 2006年03月21日 00:47