ポン・ジュノ監督作品の『殺人の追憶』、特に『ほえる犬は噛まない』が非常に面白く、ここ数年で観た映画200本程の中でも一位を争う作品なので、期待せずにはいられない。
今回観た「インフルエンザ」は韓国の街角に置かれた監視カメラの映像から日常の中の犯罪に鈍感になっていく現代人を映し出すというコンセプト。映画というよりは短編ショートビデオ。都市に蔓延する暴力を淡々と映していく。
すでに都市の暴力に侵されてしまっている人が観ても、何も感じないかもしれない。
感じない事が恐ろしいというメッセージなのだけど、そのメッセージにも気づけない程鈍感になっている事を改めて考えさせられる。
石井聡互監督の「鏡心」は、監督役の町田康が「この映画は、私の元彼女が体験した不思議な出来事を描いたものです」というナレーションから始まる、“フィクション/リアリティの境界線を描く”というコンセプトから見ても大分私的な作品で、どう観たものか困るような映画だった。後に残るのはバリ島の美しい自然だけで、彼女がどうした、こうしたはどうでも良い事に感じる。痛みは伝わってくるけれど、その痛みがどこから来るものなのかが見えてこないので、他人の不幸をただ眺めているだけの様な居心地の悪さを感じる。だからその後彼女がどうしようと、感情移入も出来ないし、ストーリーもないため観ていても疎外感を感じるだけだった。
ユー・リクウァイ監督の「夜迷宮」は一番映画らしい映画だった。
サイレント映画へのオマージュというこの作品は、ほとんどのセリフが字幕で表される。
それが、地表から50層目の秘密簡易宿泊所という設定に、とても効果的に使われていた。
画面も、くぐもっている、空気の濃密な、湿気でガラスに水滴がついているような空気感を感じさせた。
途中でミュージカルっぽくなって少し戸惑ったが、そこで使われる曲が、初めて聞いたのにどこか懐かしいようなメロディで自然と入ってきた。
この映画を見終わった時は、実は三本ともあまり見るべき所を見いだせなかったのだけれど、時間をおいて振り返ると色んな感想が出てきた。頭の中で再構築しているせいかもしれない。
そして、つい最近この映画の話をしていて、ポン・ジュノ監督「インフルエンザ」の中に出て来る営業サラリーマン一人の話だったと知った。
それがわかっていないと、この映画の面白みが何にも伝わらない! と一緒に見た人に呆れられた。
もう一度見返します。
