アカデミー監督賞、作品賞、主演女優賞、助演男優賞と主要四部門制覇。予告編を見ただけで予想出来てしまうストーリーに、期待はしていなかった。
前半、登場人物三人の人物設定に時間をかけて説明しているけれど、説明しただけで描写されていないので、この三人にあまり魅力を感じる事が出来ないまま、後半へ。
ヒラリー・スワンク演じる31歳から本気でボクシングの道を選ぶ、生まれついての貧乏な女性、マギー・フィッツジェラルド。マギーという女性を、ヒラリー・スワンクは等身大で演じているけれど、この女性が今まで一体何をしていたのか、31歳までアマチュアでリングに立っていたのか? などの細部が伝わってこないので、今ひとつ納得出来ず、共感出来ない。
後半、アクシデントの後から急に唐突にテンポが早くなり、その展開の意外さについていけなくなる。
とんでもない方向へと話は展開して行くのだけれど、その描き方が不十分で、起こった事の大きさとは比例せず、ただ淡々と進んでいく。
映画は全編、肝心な部分も含めて全てをモーガン・フリーマンのナレーションのみで明かされてしまう。
クリント・イーストウッドはいつどの映画でも、演技をしているようには見えない。彼の演技を、モーガン・フリーマンのナレーション、声の演技で補ったという事か。
ぐーっ!と役者の演技で見せるべき所を、全てナレーションで済まされたような感じで、拍子抜けした。
クリント・イーストウッドは、監督のみに徹して、フランキー役を他の役者がやった方が良かったのでは。
ヒラリー・スワンクは、中性的な魅力を最大限に引き出す役柄を楽しそうにイキイキと演じている。
モーガン・フリーマンは、声だけ、視線だけの演技で全てを語る。
フレームの端っこにいるだけで存在感をみせつける。
フランキーとスクラップはオールドマンと呼び合う。
クリント・イーストウッドは、老人の年齢で、しわくちゃだけれど、身体が大きいせいか、老人に見えない。
そして、マギーの役も、もっと若い子の設定での、若さと老いの対立、友情、愛が観たかった。
中途半端な年齢で活躍する女性と、老人に見えない老人との愛、家族的な繋がりは、何か誰かが無理をしているような、奇妙なズレを感じる。
予告編を観た時から、マギーに起こる事は予測していたけれど、アクシデントが起こってからの展開は、もしかしてそっちの方向へ進むのか?と心配した通りのものだった。
この映画のメッセージは、とても難しい問題。
一応それに答えを見せてくれるけれど、その答えに違和感を感じ、納得出来ない。
自己完結を自己満足で見せられているようで引いてしまう。
登場人物の誰にも感情移入出来ないせいか。
唯一良かったのは、止血名人のフランキーが、敢えて出血した頬を殴らせて止血させるシーン。
止血名人(カットマンと言うのか?)のエピソードは面白かった。
あと、あまりにも酷いマギーの家族達。
ちょっとそれはオーバーでしょ! と突っ込みながらも、こういう人達って、実際、現実に結構いそうで、それが逆にリアルで怖かった。
この点だけは、クリント・イーストウッドの描き方に感心した。
比べるのもおかしいけれど、前日に観た「50回目のファースト・キス」が、あまりにも全ての要素において良く出来ていて、楽しめたので、余計にこの映画が色あせて見えて、50回目のファースト・キスが更に素晴らしい映画に思えてしまう。
泣かせる事は、笑わせる事よりも簡単なはず。
でも、クリント・イーストウッドが作曲したあのテーマ曲が色んなアレンジで劇中流れるたびに、「今から良い所!」「泣く所だよ!」と言われているようでかえって冷める。
そして、笑わせる所も痛々しくて全く笑えず、かえって引いてしまった。
笑う事も出来ず、泣く事も出来ない、心は凝り固まったまま、緊張したまま過ぎた2時間13分だった。
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クリント・イーストウッド監督・出演作品で唯一面白かった映画。
でもラストに何とも言えないわだかまりが残る。
それがこの監督の魅力なのか??
*その後観た「ダーティファイター 燃えよ鉄拳」が一番面白いイーストウッド作品になりました。