
TV東京、イイノホール。アカデミー外国語映画賞受賞「海を飛ぶ夢」試写会。
「アザース」「オープン・ユア・アイズ」のアレハンドロ・アメナバル監督作品。スペイン映画。
四肢麻痺の障害を負った男性が魂の解放を求め繰り広げる闘いを描いた真実のドラマ。
25才の若さで首から下が不自由になり、26年間の年月が流れ、ラモン・サンペドロは今や死だけに救いを求め、死を唯一の希望としている。
誰が止めようとしても意見を聞かず、死を求めて止まない。それが例え愛する人でも。
自ら命を絶つ事も出来ないラモンは、人の手を借りての尊厳死を求める。
そして人権支援団体の女性ジェネからラモンの死を合法にするため紹介された弁護士のフリア、地元の工場で働くロサ、二人の女性と出会う。
ラモンは恋をしながらも、「こんな身体で人を愛する事は出来ない」と言い、愛する事も、愛される事も拒否する。そして、「自分を殺す手助けをしてくれる人こそ自分を本当に愛する人だ」と言い切る。
女ははまるで真実の愛と認めて貰う為のように、ラモンに手助けしようとする。
それが本当の愛なのだろうか。
愛する人が自ら命を絶とうとしている。
その苦しみを楽にしてあげるのが本当の愛なのか。
ラモンがこんなにも死に執着するのは、何故なのか。
彼と同じ境遇になってみないと彼の気持ちはわからないが、もし彼と同じ境遇になったとしても、劇中の神父のように、その考えや思いは人の数ほどあるのだと思う。
でも、なぜ? 25才の時に、引き潮の海に飛び込んだのはなぜ? それもわからないが、あの時にラモンは一度死んだのだと思う。死んだはずなのに、不自由な体で生き地獄を生かされている。
ラモンにはもう死ぬ事にしか喜びと希望を見いだせなくなってしまった。
ここまで死を求めるのは、逆に生にもの凄く執着しているのだとも思う。
自由な生を求める気持ちが強いからこそ、それを手に入れられない事の苦しみが大きい。絶望の毎日に疲れ切ってしまった。
だが、残された家族は。ラモンの本当の苦しみを家族達が理解出来ないのと同じように、ラモンもまた、残された家族の悲しみを本当に理解する事は出来ない。
家族のあまりに自然でリアルなセリフや描き方が、まるで本当の家族のように見えて、自分の家族のように思えてくる。
自分がもし死ぬと言えば、兄弟はこう言って止めるだろう。家長であり弟の自殺を絶対に認めない兄、死の意味もわかっていない若い甥は、自分の死から何かを学んでくれるだろうか。老いた父親は、何も言えない、何も言ってくれない。
マヌエルは唯一の他人なので、愛していながらもラモンの気持ちを尊重して意志を継ぐ。家族には言えない事、家族だから言いづらい事をマヌエルが代弁する。
ラモンに深く関わってくるのは全て女性。
女性達を強く惹きつけるのは、ラモンの人間性や男性的魅力だけでなく、周りの人達に助けて貰い生きていくために、泣く事、笑う事しか出来ない赤ん坊と同じだからだと思う。
自分が世話してあげないと食べる事、着替えや身体の手入れ、排泄も出来ない。
でも中身は、深い会話をする事も出来る、ウィットに富んだジョークで笑わせてくれる、大人の男性で、決して自分からどこかへ行ってしまったりしない。
母性本能と共依存の欲求を満たす究極の存在なのだと思う。
女性は無意識で、そういう存在を求めているのかもしれない。
ラモンはそんな女性達に自分勝手に愛される事に疲れ切ってしまったのかもしれない。
ラモンは女性達を都合良く利用しているように見えて、実は勝手な女性達に翻弄されているように思える。
そんな女性達との関係も興味深かったが、一番胸を打つのは兄の率直すぎる言葉と、伝える言葉を持たない寡黙な老いた父親。甥の若さ故の傲慢さ。
それらがとてもリアルな生を感じさせ突き刺さってくる。そして、これが実話を基にした物語だという事を思い、また深く考えさせられる。
公式サイトを見て驚いたのは、主演のラモン役のハビエル・バルデムが1969年生まれだと言う事! どう見ても60過ぎだったので、「26年寝たきりという事は、事故は35才位の時かな」とか思っていた。役年齢は55才だった。若い頃の写真の彼が、実際の彼だったのか!
フリア役のベレン・ルエアは1965年生まれ。実際はハビエル・バルデムよりも年上。
彼女も40代後半位に見えた。スペイン人は老けて見える。というより、大人っぽい。
マヌエル役のマベル・リベラは1952年生まれ。「子供のように愛している」と言うセリフに、「弟だから大して年も違わないだろうに、ラモンの方が年上に見えるし」と思っていたが、実年齢では親子でもおかしくない年齢差だったとは。
アカデミーメイクアップ賞ノミネートにも納得! メイクアップというよりも特殊メイク!? もちろん、演技力あってのたまものなのだけれど。

アメナーバル・コレクターズBOX
まだ33歳! アレハンドロ・アメナーバル監督の「海を飛ぶ夢」「アザーズ」「オープン・ユア・アイズ」「テシス 次に私が殺される」の4作品プラス「ヒメノプテロ」「LUNA-月-」の短編2作品収録の7枚組DVD-BOX! 期間限定生産です。
TBさせていただきました。
36歳にはとても見えなかったですね。
趣旨にそぐわない場合削除ください。
はじめまして! TB、コメントありがとうございます。
凄く考えさせられる映画でした。見終わってからもしばらくはこの映画の事を考えていました。
ハビエル・バルデムの演技も凄かったけれど、監督も若いのにとてもしっかりとした作品で、素晴らしいと思いました!