『死ぬまでにしたい10のこと』『あなたになら言える秘密のこと』の実力派女優サラ・ポーリーの長編映画初監督作品。
原作はアリス・マンローの『イラクサ』に収められた短編『クマが山を越えてきた』。

思い出せない記憶、忘れたい過去、忘れられない思い出。
最愛の人の正気を取り戻すため、決意したある事。
決して自分への見返りを求めず、彼女の記憶を取り戻し、とどめる為だけにどんなことでもできるのか。自分なら??

こんなに美しかった彼女、何十年経っても忘れられないはず。
彼のしようとする事、決断に自分なら? と問わずにはいられない。
誰にも訪れる老いについて、そして愛する意味について、深く考えさせられるストーリー。
カナダの大自然の中、雪原をスキーで歩くシーンが印象的。
林の中でスキーを投げ出し、雪の上に大の字になるフィオーナの幸福そうな顔が忘れられません。
サラ・ポーリー、原作のアリス・マンロー、製作総指揮のアトム・エゴヤン、挿入歌のニール・ヤング、k.d.ラングとカナダのアーティストが結集した作品。ハリウッド映画とは一味も二味違います。

フィオーナ役のジュリー・クリスティはゴールデングローブ賞主演女優賞をはじめ数々の映画賞を受賞。
本当に美しい! 老いてもハッとするような美しさと気高さにはうっとりします。儚げなところと芯の強さを併せ持つ難しい役柄を華麗に演じています。
グラント役のゴードン・ピンセントも、クマのような風貌とやさしさがあふれてくるような物腰で素敵でした。
『月の輝く夜に』ファンにとっての永遠のママ、オリンピア・デュカキスが、ちょっと疲れた主婦役で出演。色気もあるのに生活感を忘れない彼女だからこそ、サラッと演じられた役柄のような気がします。他の女優さんだったら映画の大事なところのイメージが大分変わっていそう。
製作総指揮はサラ・ポーリーの出世作『スウィート ヒアアフター』のアトム・エゴヤン。
『アウェイ・フロム・ハー 君を想う』も、サラ・ポーリーのこれまでの出演作と同じように、濃密な空気感がフィルムに生命を与えているような、人の息づかいの温度や湿度を感じる映画でした。次回の監督作にも期待します。彼女の演技も観たいです。


『アメリカ、家族のいる風景』
『あなたになら言える秘密のこと』