落ちて行く濃密な空気感は、決して居心地悪くない。映画を観ながら、安心してこの家族と一緒に壊れて行ける、
『トウキョウソナタ』 トウキョウソナタ(竹書房文庫た1-1) (竹書房文庫 た 1-1) ホラー映画のイメージが強い黒澤清監督が、今回はじめて“家族”をストレートに描いたホームドラマ。2008年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞作品。
セリフでなく状況で笑わせられる。
笑えないようなシーンで笑いが起こり、深刻なシーンですら笑いがこぼれる。
すんなりと映画の世界へ入り込み、家の一員になったような気分。
焦燥感をつのらせながらも、いつかはこの、冷めてきたお風呂みたいに生暖かい、
家族のテーブルへ戻れるという安堵を感じさせてくれる。
なんとかなると、
生きていればなんとかなると、大きな手で背中を押され、手を引っ張って貰っているみたい。登場人物達の右往左往を見守る監督の、家族を見つめる目の温かさがフィルムににじみ出ているようでした。
香川照之さんは、壊れかけた佐々木家の中で、リストラされたことをひた隠しにしながらも虚勢を張る父親役を全身で表現されていて、目が離せませんでした。
ビール一杯の飲み方までが、憎らしいほどに饒舌。それを見守っている母親と息子達の無言のひと時が、この家族の全てを表しているような凄いシーンでした。
『TOKYO!』で、これまでで一番良かったと書きましたが、この映画もとても良かったです。私が香川照之さんの良さに今頃はじめて気がついたのかも??
表情やしぐさ、動作のひとつひとつが、オーバーなようでいて無駄がなく的確に気持ちを表現していて、まるでパントマイムのダンスを観ているようでした。
ピアノのシーンは、今まで観た映画の中のどのピアノのシーンよりも美しくその音色が心に響きました。
ずっと席を立ちたくないような、余韻を残すエンディングロールが心地よくて、終わり方も素敵でした。
母親役の
小泉今日子さんは、夫を立て、家族に尽くす母親像が新鮮なイメージ。
終盤、どんどん変化して行く様子にはドキッとしました。
オーディションで選ばれた息子役の二人、長男・貴役の
小柳友さんと次男・健二役の
井之脇海さんは、二人ともとてもさわやかで、初々しさがリアルで良かったです。小柳友さんのやさしげな瞳と井之脇海さんのクールな目つきが印象的でした。
父親の友人役の
津田寛治さんは印象を深く残す演技。
井川遥さんは誰もが憧れるピアノの先生のイメージそのままでぴったり。
次男の小学校の教師役、アンジャッシュの
児嶋一哉さんもイマドキの先生っぽくて良かったです。
役所広司さんは「らしい」役柄で登場。登場しただけでなぜか笑いが起こっていました。どんな役でも説得力のある演技はさすがです。
脚本はオーストラリア出身のマックス・マニックスさんと、劇場用長編映画初参加の田中幸子さんと黒澤清監督。
プロデュースはEntertainment Farmとフォルテシモ。
フォルテシモはオランダを拠点にした映画の制作・セールス会社で、ウォン・カーウァイ作品やジム・ジャームッシュ作品などの製作会社として知られ、邦画を手がけるのは今回が初めてだそう。二社のプロデューサー二人から、「この映画の監督に黒澤清監督を」という依頼があったそうです。
『
アカルイミライ』がずっと気になっていたのですが、黒澤清監督作品だったんですね。今すごく観てみたいです。
posted by bakabros at 22:30
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