
広い海の上にぽつんと浮かぶ1隻の漁船。そこは老人(チョン・ソンファン)と少女(ハン・ヨルム)の2人だけの世界。
少女は連れてこられてから10年、一度も陸に上がった事がない。
祖父ほども年の離れた男は、慈しむように大切に彼女を育ててきた。それは彼女が17歳になったら、結婚式を挙げるため。そしてその夢は、三ヶ月後についに叶うはずだった。

段々焦って来て、何日分も飛ばしてインチキする辺りがしつこい程何度も描かれて、おかしかったです。
毎晩、2段ベッドの上下に分かれ、眠る前に少女の腕をすすーっと撫で、手だけ握って眠るのですが、このシーンは何度観てもゾゾッとします。
少女が目を覚ます前に朝食を作り、弓矢を改造した楽器で少女のためだけに音楽を奏で、夜にはタライで少女の体を清め洗い髪をくしけずる。
老人は少女のためだけに生きていたけれど、少女の未来はどんどん開かれていく。
ラスト、魂との契りを交わすような、幻想的で超現実的なセックスシーンには、もの凄いインパクトと嫌らしさがありました。それが2人だけの世界でなく、そこにもう1人の男(ソ・ジソク)が傍観者としている事が、夢と現実を繋ぎ、この作品をより不思議なものにしているような気がしました。
『サマリア』に続きハン・ヨルムは、この映画でも独特の無垢な微笑みをたたえていますが、そんな彼女の、老人に嫌悪感を持ち始め反発する時の、険しい表情がとても印象的。
一度は離れようとした老人と、離れられないと知った後の、諦めと達観、悟ったような穏やかな微笑み。彼女の老人への愛情は、彼の愛以上に大きく包み込む母性の愛。そう考えると、晴れやかな婚礼の儀式も、たまらないほど寂しげで悲しく見えました。
この映画では台詞が1つもなかったんですね。喋らなくともすべてを全身の表情で表現しきっていたので、セリフがないという事にも気づかない程でした。
無垢なあどけなさと、成熟した女性のエロティシズムとを併せ持つとても魅力的な女優さんです。

海に浮かぶ一艘の船に2人だけで暮らす老人と少女のいかがわしくも美しい愛の物語を神秘的かつエロティシズム漂う独創的なタッチで描き出す異色のラブ・ストーリー。

3/10〜『絶対の愛』公開、次回作『息』もクランクアップ。昨年の「引退宣言」後も映画を撮られていて安心しました。唯一無二のキム・ギドクワールドを、まだまだ存分に味わってみたいから。

『サマリア』