2007年02月27日

『弓』

少女への愛を奏でる楽器であり、少女を守る武器でもあり、少女の命を懸けた"弓占い”の道具でもある『弓』(THE BOW)。それは男の究極の夢なのか。人間の本能、誰にでもある願望なのか。永遠の愛、絆や繋がりといった幻想を、目に見える形として眩しい程鮮やかに描ききる。キム・ギドク監督が追い求める“至上の愛”のかたちには、いつもドッキリさせられます。
thebow01.jpg
広い海の上にぽつんと浮かぶ1隻の漁船。そこは老人(チョン・ソンファン)と少女(ハン・ヨルム)の2人だけの世界。
少女は連れてこられてから10年、一度も陸に上がった事がない。
祖父ほども年の離れた男は、慈しむように大切に彼女を育ててきた。それは彼女が17歳になったら、結婚式を挙げるため。そしてその夢は、三ヶ月後についに叶うはずだった。

thebow02.jpgカレンダーに“結婚”と書きハートマークで囲み、その日を心待ちにし、1日の終わりに×印をつける姿がいじらしいです。
段々焦って来て、何日分も飛ばしてインチキする辺りがしつこい程何度も描かれて、おかしかったです。
毎晩、2段ベッドの上下に分かれ、眠る前に少女の腕をすすーっと撫で、手だけ握って眠るのですが、このシーンは何度観てもゾゾッとします。

少女が目を覚ます前に朝食を作り、弓矢を改造した楽器で少女のためだけに音楽を奏で、夜にはタライで少女の体を清め洗い髪をくしけずる。
老人は少女のためだけに生きていたけれど、少女の未来はどんどん開かれていく。
ラスト、魂との契りを交わすような、幻想的で超現実的なセックスシーンには、もの凄いインパクトと嫌らしさがありました。それが2人だけの世界でなく、そこにもう1人の男(ソ・ジソク)が傍観者としている事が、夢と現実を繋ぎ、この作品をより不思議なものにしているような気がしました。

『サマリア』に続きハン・ヨルムは、この映画でも独特の無垢な微笑みをたたえていますが、そんな彼女の、老人に嫌悪感を持ち始め反発する時の、険しい表情がとても印象的。
一度は離れようとした老人と、離れられないと知った後の、諦めと達観、悟ったような穏やかな微笑み。彼女の老人への愛情は、彼の愛以上に大きく包み込む母性の愛。そう考えると、晴れやかな婚礼の儀式も、たまらないほど寂しげで悲しく見えました。
この映画では台詞が1つもなかったんですね。喋らなくともすべてを全身の表情で表現しきっていたので、セリフがないという事にも気づかない程でした。
無垢なあどけなさと、成熟した女性のエロティシズムとを併せ持つとても魅力的な女優さんです。

弓
海に浮かぶ一艘の船に2人だけで暮らす老人と少女のいかがわしくも美しい愛の物語を神秘的かつエロティシズム漂う独創的なタッチで描き出す異色のラブ・ストーリー。

キム・ギドクの世界 〜野生もしくは贖罪の山羊〜 キム・ギドクの世界 〜野生もしくは贖罪の山羊〜
3/10〜『絶対の愛』公開、次回作『息』もクランクアップ。昨年の「引退宣言」後も映画を撮られていて安心しました。唯一無二のキム・ギドクワールドを、まだまだ存分に味わってみたいから。

カチンコキム・ギドク監督作品の感想記事
『サマリア』

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posted by bakabros at 17:21 | 東京 ☀ | Comment(2) | TrackBack(1) | 韓国映画

2007年02月26日

『サマリア』

ひと呼吸ごとに生きる事の喜びと痛みを感じる年代、少女の頃の親友との関係。
まるで世界にふたりしか存在しないかのように、憧れて、独占し、一体になりたいという願望。
そんな子供のままの火遊びの結果に自分なりの決着をつける為、また闇の世界へと歩み出す、遺された独りの少女。チェヨンとヨジンと父親の、どこへ行き着くのかわからない三重奏に冷や汗が出てくるような、胸に強く迫ってくる映画。『サマリア』

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第一章「パスミルダ」 インドの説話集でバスミルダという娼婦と寝た男が、その後仏教徒になったという話から、パスミルダ気取りで援助交際を続けるチェヨン(ハン・ヨルム)と、そんな親友を心配しながら見張り役をするヨジン(クァク・チミン)、2人の関係。

第二章「サマリア」 新約聖書ヨハネ第四章に登場する、名もなきサマリア人の女性のこと。独りになったヨジンがチェヨンの辿った道を自ら再び歩む、贖罪の旅。

第三章「ソナタ」 韓国の一般的な乗用車の名前。社会常識を持った韓国の成人を意味する。最愛の娘ヨジンがしている事を知り、やり場のない怒りと憎しみを父親(イ・オル)の視点から描く復讐の旅。

第54回ベルリン映画祭銀熊賞(監督賞)受賞作品。

色んな問題を提示し、「あなたはどう思うの? 答えを聞かせて」と監督に問いかけられているように感じる映画です。
でも、援助交際についての解釈とか、復讐心、人間としての善悪の基準について問いかけているように見えながら、結果ではなくてそこへ行き着くまでの心の変遷、自由な魂の解放に焦点を当てているからこそ、登場人物の全てに共感してしまうのだと思います。

ヨジンとチェヨンが銭湯に入るシーン、チェヨンがホテルの窓から笑って手を振るシーンと、印象的な場面は沢山ありましたが、ヨジンの父親が、幸福そうに見える家庭を持ちながら援助交際をする男の食卓へ踏み込むシーンと、その終わり方がとても強烈なインパクトがありました。この辺りの描き方がもの凄くリアルで、空恐ろしさを感じます。

チェヨン役ハン・ヨルムさんの、聖母か菩薩のような常に絶やさない微笑みがとても心に残ります。
ハン・ヨルムさんはキム・ギドク監督の『サマリア』の次の映画『弓』でも主演。監督の理想の女性像を体現出来る女優さんなのかなと思いました。

サマリア サマリアの少女
サマリア
サマリアの少女 映画のノベライズ本。

キム・ギドクの世界 〜野生もしくは贖罪の山羊〜 キム・ギドクの世界 〜野生もしくは贖罪の山羊〜
今、世界で一番注目されているキム・ギドクの世界をインタビュー、ルポ、評論、記事、対談で構成した日本編集オリジナル版オフィシャル・ブック。



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posted by bakabros at 00:57 | 東京 ☀ | Comment(0) | TrackBack(2) | 韓国映画

2006年11月12日

『家門の危機』

韓国はコメディ大国なのだそうですが、初めて見る韓国のコメディ映画です。ラブコメだけど、コメディ色の方が大分濃い印象。ストーリーと無関係のギャグのオンパレード、しかもベタな下ネタ満載で、ある意味、全世界に通用する映画かも!?

kamonnokiki.jpg2005年の映画興業収益では『マラソン『親切なクムジャさん』を抜き第2位だそうです。1位はなんだったんだろう??
韓国歴代ラブコメディ史上No.1の興業収益といううたい文句に興味津々。
韓国は近くて遠い国といったイメージがありましたが、3兄弟でのお風呂のシーンや、お寺、ご祝儀、そしてお辞儀などに親近感があって、細かいところまで共感出来るのがいいですね。
言葉の音が日本語ととても似ていて、同じ様な発音の言葉が沢山あるんですよね。“家門の危機”は韓国語でも「カモンノキキ」と聞こえるし。
そして、韓国の女子高生も、制服のスカートの下にジャージを着るんだ! と思わぬ意外な発見もありました目

↓黙っていれば男前ぴかぴか(新しい)
kamonnokiki1.jpgドラマ『天国の階段』などで有名なシン・ヒョンジュンは、『輪舞曲 -ロンド- 』でのヤクザ役や、濃い強面の風貌からはとても想像出来ないコメディ演技の数々に、ここまでやるのか!? と驚かされます。あっぱれです。しびれました。このギャップを生かしてどんどんコメディに進出して欲しい、魅力的な俳優さん。
ちょっと目の辺りが松田優作を思い起こさせました。あと、他の誰かにも凄く似ている気がする……。

キム・ウォニは、美しい上にこちらもはじけたコメディエンヌぶりはとってもキュートで良かったです。韓国ではMCとしても活躍されていて、とても人気のある女優さんなのだそうです。

監督は、シン・ヒョンジュンも出演の『アウトライブ』、『人形霊』のチョン・ヨンギ。アクションにホラーにコメディと幅広いジャンルを撮る監督さんなんですねカチンコ

英題が『MARRYING THE MAFIA IIなので不思議に思い調べてみると、2002年公開の『大変な結婚』が第1弾で、『家門の危機』は第2弾らしいです。
しかも、『家門の危機』公式サイト監督のプロフィールで、2006年『家門の復活』というタイトル発見! 韓国ではすでに続編が公開されていたんですか!? 人気シリーズだったんですね〜! 日本でも『家門の危機』がヒットしたら、続編公開されるのかなexclamation&question

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↑このジャケットのシン・ヒョンジュンは杉本哲太似exclamation&question

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天国の階段では、どんな役柄なんでしょうか。シン・ヒョンジュンの他の出演作が見てみたくなりましたるんるん

家門の危機@映画生活

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posted by bakabros at 20:44 | 東京 ☀ | Comment(0) | TrackBack(3) | 韓国映画

2006年11月08日

『Sad Movie <サッド・ムービー>』

『Sad Movie <サッド・ムービー>』 主人公達の“泣くシーン”が多くて印象的。「号泣必至」と前宣伝で煽られると余計に泣けなくなるような……。どんなにドラマチックでもあくまでドラマ的で、TVの連続ドラマ風。「ベストハンカチスト賞」を受賞したチョン・ウソンの男泣きが観られるかどうかが見所!?

Sad DVD もうひとつの Sad Movie <サッド・ムービー> Sad DVD もうひとつの Sad Movie <サッド・ムービー>
キャスト&スタッフのインタビュー映像、メイキング&NGシーン収録のナビゲートDVD。

プロポーズ出来ない消防士、病気になったことで初めて打ち解け合う親子、恋人から愛想を尽かされていることに気づかない青年、火傷の後を気にして片想いの彼の前で顔を出せない着ぐるみの少女。いくつかの別れのカタチに、それぞれの物語の登場人物達が少しずつ絡んできます。

大分前から予告編がよく流れていて、出演者8人が泣いているポスターも話題になり、互いに絡み合う4つの別れのストーリーという事でちょっと気になっていた映画です。

サッド・ムービー サッド・ムービーDVD。2007/04/06発売予定。

4組4様の“別れ”の物語を綴った韓流ラブ・ストーリーという事で、群像劇でもありますが、そういう意味で期待するとちょっと物足りないかもしれません。
ひとつひとつのストーリーが少し取って付けたような感じで、いまいち入り込めませんでした。

一番良いシーン、泣かせるシーンの有り得なさにちょっと引いてしまいます。
全体的に言いたいこと、雰囲気はよくわかるのだけれど、なんだか気恥ずかしくて本気で映画に感情移入出来なくて、不完全燃焼した感じでした。

チョン・ウソンファンにはやっぱりたまらない映画なのでしょうか?
別れの代行屋ハソク役のチャ・テヒョン、とても自然で良かったです。
スジョン役のイム・スジョンも良かったです。

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全108シーン完全シナリオ採録・ハングル&読み仮名付ガイドブック。こうやって勉強したら、韓国語もあっと言う間にマスター出来そうexclamation&question

Sad Movie サッド・ムービー@映画生活

カチンコチョン・ウソンの出演作品の感想記事
デイジー』『私の頭の中の消しゴム

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posted by bakabros at 14:32 | 東京 ☀ | Comment(0) | TrackBack(5) | 韓国映画

2006年10月24日

『トンマッコルへようこそ』

試写にて『トンマッコルへようこそ』鑑賞。しっかりと一貫した反戦のメッセージに添いながらも、のびのびとどこまでも自由で、昔の日本映画のような力強くのびやかな勢いを感じました。

トンマッコルへようこそ
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売り上げランキング: 236
おすすめ度の平均: 4.5
5 悲しいけど、爽やかさが……
5 思い出すと今でも涙が…
5 ★戦争がなくなって欲しいと心から思った★


『ククーシュカ ラップランドの妖精』と似たような話かな? と思っていましたが、『ククーシュカ』はもっと個人的なお話。
『トンマッコルへようこそ』では、村の人々と対する連合軍、人民軍、韓国軍まで絡んできて、中盤までの穏やかでユーモラスな雰囲気がをぶっ壊すかのような凄まじいラストの爆撃戦闘シーンは、まさに戦争映画です。一番小さな国家間の諍いを見ているようで、常に考えさせられるのですが、ふっと力の抜ける瞬間が沢山あって、とても観やすい、でもだからこそ戦闘シーンが悲惨に胸に突き刺さります。

トンマッコルへようこそ トンマッコルへようこそ 映画のノベライズ本。

戦争下での悲劇と、人間のおかしさを切り取るワンシーンワンシーンの、ユーモアが緊張感を増し、緊張感が逆にユーモアを生む。ひょうひょうとしたセリフと絶妙な間、俳優達の演技は素晴らしいし、これが長編映画初監督というパク・クァンヒョン監督の今後の作品にとても期待します。

もののけ姫』のコダマみたいなお地蔵さんとか、音楽も久石譲ということもあって寓話的な雰囲気はどことなく宮崎駿作品を彷彿とさせます。実際パク監督は宮崎駿作品の大ファンで、この映画を作る時も常に思い描いていたのだそうです。

 韓国映画/ウェルカム・トゥー・トンマッコル OST
ウェルカム・トゥ・トンマッコル(Welcome to Dongmakgol) OST (韓国盤)
「トンマッコルへようこそ」オリジナル・サウンドトラック日本版

韓国の人気劇作家チャン・ジンの大ヒット舞台劇の映画化。人民軍の将校に『シルミド/SILMIDO』のチョン・ジェヨン、敵対する韓国軍の将校役に『JSA』のシン・ハギュンなど、舞台版にも出演した俳優が多くそのままの役で出ているそうです。『オールド・ボーイ』のカン・ヘジョンは、蝶々と共に、おとぎの国と現実世界を結びつけるような、天真爛漫な少女役がぴったり。

CGやVFXをどこに使っているのかわからない程、実写の迫力があって驚きました。
イノシシはCG!? 凄くリアルで本物っぽかったです。
ポップコーンのシーンは、一瞬『マグノリア』のあのシーンを連想しましたがこちらの方がずっと好きですかわいい

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posted by bakabros at 14:35 | 東京 ☀ | Comment(6) | TrackBack(38) | 韓国映画

2006年08月29日

『グエムル -漢江の怪物-』

『グエムル -漢江の怪物-』(『THE HOST』『怪物』)試写。「私は高校のとき、漢江(ハンガン)で怪物を見た」という ポン・ジュノ監督のオリジナルストーリーによる最新作。ソン・ガンホペ・ドゥナも出るしと興味津々でしたが、予告編の怪物の姿を見てちょっとびっくり。トンデモ怪獣映画か!? と、大分テンション下がり気味で観ましたが、そこはやはりポン・ジュノ監督、ただの怪獣映画ではありませんでした。独特の間とユーモアで笑わせながらも、人間の奥底にある恐怖感を煽り漂わせる。その描き方は、他のどの映画にも似ていないし、あるジャンルにおさまりきらない、不思議と色んな想いを抱かせる、今までに観たことのないような映画でした。

グエムル-漢江の怪物- コレクターズ・エディション
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おすすめ度の平均: 5.0
5 これは怪物映画ではなく、家族ドラマ。
5 ポンジュノ会心の一作
5 素晴らしくコミカルで哀しく、残酷な話


『キング・コング』、『ロード・オブ・ザ・リング』のWETA、『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』、『デイ・アフター・トゥモロー』のThe Orphanageによるキャラクター制作のVFXの怪物にはずっと違和感がありましたが、最後には、本当にそこにある、いるという恐怖を感じました。それは、俳優達の演技力のなせるわざだと思います。

ポン・ジュノ監督作品お馴染みのパク・ヒボン、パク・ヘイル、イ・ジェウン、キム・レハなどリアリティを持った個性的な俳優陣が脇を固めます。

そして、次第に未知の怪物よりも、科学力や人間そのものの方がずっと恐ろしいように思えてくる。
ストーリーはシンプルだけれど、映像や、端々に散りばめられたブラックユーモアから感じる想いはとても複雑で、重たいもの。

怪獣映画好きには物足りないのかもしれませんが、先入観を持たずに“ただの一本の映画”として純粋に観たら、面白く観られるのではないかと思います。

タイトルと予告編だけで敬遠せずに、是非、女性にも観て欲しい作品です。


殺人の追憶 三人三色
殺人の追憶
三人三色
ほえる犬は噛まない
ポン・ジュノ監督作品で一番好きなのは、韓国映画をよく観るきっかけとなった、『ほえる犬は噛まない』です。笑いのセンスや、濃密な空気感のある独特の映像がぴたりときました。

ポン・ジュノ監督作品の感想記事
カチンコ『三人三色』
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posted by bakabros at 23:54 | 東京 ☀ | Comment(6) | TrackBack(43) | 韓国映画
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